貸株レートが権利確定日にかけて上昇する理由と、金利優先に注意すべき点

貸株レートが権利確定日にかけて上昇する理由と、金利優先に注意すべき点」を解説します。

  • 証券会社は、権利確定日に貸株レートを高くする傾向がある。
  • 貸株市場では、優待クロスや権利落ちの下落などを目的とした空売り需要が増加する。そのため、証券会社は権利確定日をまたぐ条件で株を調達したいという思惑がある。
  • 証券会社の思惑に惑わされずに、個人投資家は、金利優先か権利取得優先かを自身で判断するべき。

 

貸株レートは権利確定日に高くなる

楽天証券、マネックス証券の貸株サービスに、次のような貸株レート貸株金利)の調整ルールがあります。

金利優先

権利確定日は、貸株金利が通常の5倍になります。

出典:楽天証券

配当金自動取得サービスの利用中は通常より低い貸株金利の適用となります。

出典:マネックス証券

 

楽天証券は、「『権利確定日でも貸株にする』設定にしてくれたら、貸株レートを増やしますよ」といっています。

マネックス証券は、「『配当金を受け取るために権利確定日に貸株しない』ように設定するのなら、貸株レートを減らしますよ」といっています。

 

つまり、両社とも、権利確定日に株を借りたい」という思惑が見てとれます。

また、貸株レートは、権利確定日にかけて上昇する傾向にあります。 ※エビデンスは今後作成します。

 

これらの理由・背景を説明していきます。

 

貸株市場での需給が引き締まり、貸株レートが高くなる

権利確定日にかけて、需給が引き締まる

権利確定日にかけて、貸株市場での需給が引き締まります。その結果、貸株レートが上昇します。

貸株市場で主に供給サイド(貸す側)に位置するネット証券会社は、貸株市場の需要に応えるために、貸株レートを高くしてでも(=貸株金利を高く払ってでも)個人投資家から株を借りたいのです。

 

なぜ需給が引き締まるのか

貸株市場の需要サイドでは、「権利確定前に空売りをして、権利確定後に買い戻す」ために、株を借りる需要が増えます

具体的な理由は、優待クロスであったり、単に権利落ちの値下げ幅を収益機会にしたり、ということが考えられます。

 

一方、貸株市場の供給サイドでは「株主としての権利を取得するために保有する(貸株しない)」などといった動きがあるために、貸株の供給が減ります

 

復習

権利確定日時点に貸株をしていると、株の名義も貸出先に移転するため、株主優待等を取得する権利が受け取れなくなります。

解説はコチラ。

貸株サービスの注意点~貸株をするデメリットやリスクを知ろう~

 

豆知識

逆日歩が権利付き最終売買日に高くつくのも、同様の理由です。

逆日歩は、品貸入札という手続きで株の貸し借り(=需給)が均衡した時のレートです。“品貸入札”は、日証金という組織が制度信用取引の売りを支えるために行っています。

逆日歩は、貸株レートと同様、貸株市場の指標の一つです。

この仕組みも今後、丁寧に解説します。

 

権利確定日前における貸株市場

ここで、貸株市場での専門用語を紹介しておきます。

  • コーラブル(callable):期(=権利確定日)超えができない。
  • ノンコーラブル(non-callable):期(=権利確定日)超えができる。

貸株サービスでは、この言葉は使われておりません。

 

上述の需要サイドの理由から、貸株市場では、ノンコーラブル条件の株が好まれる傾向にあります。

供給者としてのネット証券会社は、個人投資家からコーラブル条件の株を借りても、貸株市場で運用しにくいわけです。

 

ネット証券会社としては、「ノンコーラブル」のものがほしいわけです。

なので、わざわざ貸株レートを高くして、貸株金利を高く払うのです。

理由もなく金利優先に限って貸株レートを引き上げることはしないはずです。

「権利確定日を超えられる株なら、貸株金利を多く払う以上の価値がある!」と、証券会社は判断していると推測できます。

そういえば、読者の中には、”優待クロス”をしたことある方がいるかもしれません。

証券会社の一般信用取引で新規売りができるのは、ノンコーラブルの条件で株の在庫を調達できているからです。 ※具体的にどのように一般信用売の在庫を調達しているかは各証券会社によります。

 

これらのことから得られる教訓をまとめます。

 

証券会社の思惑と、個人投資家が注意すべきこと

貸株サービスを提供している証券会社は、「権利取得のための自動解除機能」というような、貸株サービスのデメリットを減らす機能を用意してくれています。

とはいうものの、個人投資家から借りる株を、権利確定日を超えて運用したいとも思っています。

「解除機能を使わずに、長く貸してくれてもいいんだよ」という、証券会社のある種の”誘い”が垣間見えます。

この誘いが、上述で紹介した「権利確定日に関わる貸株レートの調整ルール」に反映されています。

 

あえて”誘い”と言いましたが、「権利確定日も貸株してくれたら貸株レートを上げる」というように、個人投資家に選択の余地を提供してくれていると、前向きに捉えることもできます。

 

このような証券会社の振る舞いに対して、貸株サービス利用者が注意したいことをまとめます。

 

  • 「貸株レートが高くなるから」or「権利はとりあえず確保しておきたいから」という一面的な判断で、金利優先・権利優先を判断しないほうがいい。
  • 貸株金利と権利の価値の両面に注目し、天秤にかけてから、権利確定日においてどちらを優先するかを判断するべき。

 

貸株サービスについても、トレードオフ(あっちが立てば、こっちが立たず)の関係があるということを忘れないでください。

 

以上、参考にしていただければ幸いです。

ここまでご覧いただきありがとうございました。

貸株市場に関する書籍

品貸入札・貸株市場に関してもっと詳しく知りたい方は、こちらの書籍がおすすめです。

 

☆貸株サービスをもっと知りたいならこちら☆
貸株サービスの解説記事をまとめました | 貸株.com (kashikabu.com)