【貸株市場を徹底解説⑤】財務諸表から見る制度貸借と一般貸借の取引規模

今回は、「信用取引や貸株市場にまつわるデータ」を紹介していきます。

今まで抽象的な説明が続いてしまい、申し訳ございませんでした。

「仕組みはある程度わかった。で、信用取引・貸株市場を数字で見たらどうなのよ?」に回答していきます。

 

  • 証券会社の信用取引・貸株市場での取引規模や収益は、財務諸表(貸借対照表・損益計算書)から概算を読み取ることができる。
  • 各ネット証券会社の取引規模を比較してみた。
  • 日本証券業協会は、一般貸借の取引を週次で集計して公表している。

財務諸表から覗く貸株市場・信用取引

  1. 残高
  2. 収益・費用

の順で見ていきます。

(財務諸表そのものの前提知識は、ここでは言及しません。各自予習をお願いいたします。)

信用取引・貸株取引の取引残高

各社の貸株市場(制度貸借・一般貸借)での取引規模、信用取引の規模はどうなっているのか。

ここでヒントとなるのが、株を貸したときに同時に発生する、担保の授受です。

 

株を貸した場合、担保を受け取るという二面性があるんでしたよね。

この担保が現金で受け取れている場合、その金額がバランスシート(貸借対照表)に表現されています。

 

ただし、担保金率は、交渉によって105%であったり80%であったりするので、概算にしかならない点に注意したい。

また、月末時点での残高であるので、他の営業日の残高は観察できない。

 

では、実際にバランスシートを読み取っていきましょう。

 

例えば・・・
GMOクリック証券 第16期 決算公告(PDF)

 

赤枠部分は、資産、つまり、資金の貸付に当たる部分です。

青枠は、負債、つまり、資金の借入に当たる部分です。

 

バランスシートの科目を説明しておきます。

この解読の際に、貸株取引の二面性(株を貸すと同時に担保を受け取る)が利いてきます。

 

資産 負債
信用取引貸付金
=”顧客の信用取引に係る有価証券の買付代金相当額”(信用買・顧客への債権)
信用取引借入金
=”証券金融会社からの貸借取引に係る借入金及び他の金融商品取引業者からの信用取引による借入金”(信用買・日証金への債務)
信用取引借証券担保金
=”貸借取引により証券金融会社に差し入れている借証券担保金及び他の金融商品取引業者に差し入れている担保金でこれと同様の性質を有するもの”(信用売・日証金への債権)
信用取引貸証券受入金
=”顧客の信用取引に係る有価証券の売付代金相当額”(信用売・顧客への債務)
借入有価証券担保金
=”債券貸借取引等の消費貸借契約に基づき借り入れた有価証券の担保として、当該取引相手方に差し入れている取引担保金”(借株の担保金)
有価証券貸借取引受入金
=”債券貸借取引等の消費貸借契約に基づき貸し付けた有価証券の担保として当該取引相手方より受け入れている取引担保金”(貸株の担保金)

有価証券関連業経理の統一に関する規則(昭49.11.14)より引用し作成

 

・・・

 

ごちゃごちゃしてきました。整理します。

資金のフローを図に表すと、このようになります。

見えてきましたかね。

 

他の証券会社も同様に調べると・・・

 

例えば、「SBIは貸株で5845億円の担保金を受け取っている」「楽天は借株により、346億円の担保金を差し入れている」なんていう見方ができます。

ここからわかること。

  • 松井証券は、一般貸借において、借株のほうが規模が大きい。
    →おそらく、貸株サービスで株がそこまで集まっていない?もしくは、借株に力を入れている。
  • その他証券会社は、貸株のほうが規模が大きい。
  • ※GMO、auカブコム、マネックスは上の3社と表記が異なっています。

 

他にもわかりそうなことがあったら、コメントいただけますと幸いです。



信用取引・貸株取引による収支

損益計算書の大項目である金融収益金融費用の中項目に、関連項目があります。

金融費用 金融収益
信用取引費用
=”信用取引又は貸借取引により発生した支払利息及び品借料”(信用取引の費用)
信用取引収益
=”信用取引又は貸借取引により発生した受取利息及び品貸料”(信用取引の収益)
有価証券貸借取引費用
=”有価証券貸借取引により発生した費用”(借株の費用)
有価証券貸借取引収益
=”有価証券貸借取引により発生した収益”(貸株の収益)

有価証券関連業経理の統一に関する規則(昭49.11.14)より引用し作成

 

しかしながら、実際の損益計算書では中項目が表示されていないので、意味のある比較はできませんでした。

 

個人的な見解ですが、品貸料・品借料(すなわち、逆日歩)が収益・費用項目に入っているのは問題であると感じています。

逆日歩は、日証金や証券会社を経由して信用の売り手から買い手に渡るものでしかなくて、実質的には売上・費用ではなく、預り金に近い項目と考えられるからです。

日証金の決算説明会(2019年3月期)でもこの点について言及しています。



日本証券業協会が公表する、一般貸借の公的統計

貸株市場のうち、一般貸借に焦点をあてます。

日本証券業協会(日証協)が、一般貸借に係る取引残高、貸借残高の集計と公表を週次で行っています

逆に言えば、一般貸借を行っている証券会社は、日証協に取引データを提出しています。

 

残念ながら、一般貸借に係る収益費用の集計はありません。

 

株券等貸借取引状況(週間) | 日本証券業協会 より筆者作成

 

金額は、相場要因で上昇しているとして、数量は、期待していたよりは増加していないかもしれません。

このことは、こちらの記事でみた「信用取引売り残高に占める一般信用の割合が買いに比べてそこまで伸びていない」ということと整合性が取れていそうです。

 

【貸株市場を徹底解説④】一般信用取引を支える一般貸借の仕組み

 

ここ数年、貸付と借入で差が開いてるのはなんだろうか。計測対象外の業者の参入?



まとめ

今までの記事に比べて、より具体的で参考になるお話ができたかと思います。

 

「項目はわかった。規模感もなんとなく分かった。」

「では、実際の対顧客向けの金利・貸株料(価格設計)はどうなっているのか。」

 

次回は、信用取引・貸株サービスというそれぞれの金融商品のプライシング(価格設計・金利設計)に迫っていきます。

 

 

今回の記事は以上になります。ここまでご覧いただきありがとうございました。

 

☆貸株サービスをもっと知りたいならこちら☆
貸株サービスの解説記事をまとめました | 貸株.com (kashikabu.com)

 

こちらを参考に執筆いたしました。

 

 

補足:貸借資産の時価評価

『業務及び財産の状況に関する説明書』から、時価ベースの取引規模を観察可能です。

解説・各社比較は後日追記します。

(https://www.rakuten-sec.co.jp/ITS/disc_PDF/gyoumu202012_01.pdf)