【貸株の入札を個人投資家に!】auカブコム証券のデイトレ信用オークションを解説します

【貸株の入札を個人投資家に!】auカブコム証券のデイトレ信用オークションを解説します

今回の記事では、2022年1月31日(月)にauカブコム証券に導入される『デイトレ信用にかかるプレミアム料の入札(オークション)方式』を解説していきます。

  • auカブコム証券は「より高いプレミアム料を払える投資家」に株を貸し始める。
  • auカブコム証券、個人投資家の双方に、メリット、デメリットがある。
  • ネット証券の株の運用の選択肢が増え、より多くの収益機会を獲得しようとしている。貸株市場における価格発見機能が期待される。

 

信用取引と貸株、デイトレ信用の知識を復習

本題に入る前に、信用取引と貸株の関係、デイトレ信用のルールについて、おさらいしておきます。

信用取引と貸株

 

信用取引では、次のような資産の動きが発生します。

  • 新規買い:投資家が、証券会社から資金を借りる
  • 新規売り:投資家が、証券会社から株券を借りる

 

一方、貸株サービスでは、次のような資産の動きが発生します。

  • 個人投資家が、証券会社に株券を貸す

貸株サービスとは、投資家が、保有している株券等を証券会社に貸し出し、貸株金利を受け取ることができるサービスです。

貸株サービスとは|日本取引所グループ

 

 

信用取引を行う証券会社は、投資家に貸すための資金は資金市場から、株券は貸株市場から調達しています。

貸株サービスは、個人投資家が貸株市場に貸し手としてアクセスする場なので、貸株市場の一部と言えます。

このように、信用取引の仕組みと貸株市場は密接にかかわりあっています

 

詳しくはコチラの記事にて解説しています。

【貸株市場を徹底解説①】信用取引との密接な関係

デイトレ信用

デイトレ信用とは、当日中に返済するデイトレード向けの信用取引です。
その他のネット証券では、名前を変えて同じようなサービスが提供されています。(日計り信用、いちにち信用、など)

デイトレ信用には、

  • 金利や貸株料、手数料が発生するが、通常の信用取引と比べて低水準
  • 同一保証金で回転売買が一日に何度でも可能

といったメリットがあります。

 

ただし、

  • 銘柄によっては、プレミアム料がかかる
  • 当日中にポジションを返済しなければならない

などの制約、デメリットもあります。

 

詳細はコチラにてご確認ください。

 

デイトレ信用プレミアム料入札(オークション)方式のルール

デイトレ信用プレミアム料入札(オークション)方式のルールのポイントを押さえていきます。

詳細は、サイトの確認お願いいたします。

 

ルールの概要は次の通りです。

  • 時限内に入札価格をauカブコム証券に提示する
  • 最高金額にて入札された投資家が落札する
  • 落札できたら、21:00以降に発注が可能となる
  • 落札終了後に、発注可能株数が残る場合は、落札出来なかった・入札に参加出来なかった投資家も、落札されたプレミアム料にて発注可能

 

主な注意点を列挙します。

  • (発注時間<大口優遇プラン<入札価格)というように、落札の優先順位がある
  • 入札額に下限があらかじめ設定されている
  • 最高金額の入札が価格となる
  • 落札したにもかかわらず注文をしなかったら、ペナルティが科される。

 

以上を踏まえて、デイトレ信用プレミアム料入札(オークション)方式のメリット・デメリット・意義について解説していきます。

 


 

デイトレ信用プレミアム料入札(オークション)方式のメリット・デメリット

デイトレ信用プレミアム料入札(オークション)方式という、新しい仕組みのメリット・デメリットを整理します。

auカブコム証券視点のメリット・デメリット

auカブコム証券にとって、考えられる主なメリット・デメリットは次の通りです。

メリットについて。
需要を価格(プレミアム料)の申告とともに積み上げることで、正当な価格がつき、利ザヤが増えると考えられます。

といいますのも、今まで証券会社側が一方的に価格を提示してきました。それが実は割安だった場合、つまり、「もっとプレミアム料を払ってもよい投資家が実際には存在していて、今回アクセスできるようになった」場合、収益機会が増加することとなります。

 

auカブコム証券の収益の改善、株券在庫の稼働率向上に貢献すると考えられます。

※auカブコム証券は、株券在庫の稼働を目標の一つにしているように思われます。

現在、当社における株の貸出可能残高(在庫)は、およそ3400億円ほどである。このうち、実際に貸出されているのが、全体の14%ほどにとどまっており、86%が在庫として固定化している。こうした状況を打開するため

第54回「株取引への人工知能の導入;カブドットコム証券へのインタビュー」|独立行政法人経済産業研究所

 

デメリットについて。

需要を価格(プレミアム料)の申告とともに積み上げることで、正当な価格がつき、利ザヤが減ると考えられます。

今まで証券会社側が独占的・一方的に価格を提示してきました。それが実は割高だった場合、今まで儲けられていた超過収益分を失うこととなります。
※これを防ぐために、プレミアム料に下限を設定している可能性もあります。

また、ルールに「落札終了後に、発注可能株数が残る場合は、落札出来なかった・入札に参加出来なかったお客さまも落札されたプレミアム料にて発注いただけます」とあるように、決定されたプレミアム料で売り建てる投資家が供給に比べて少ない場合、株券の売れ残りのリスクがあります。

個人投資家視点のメリット・デメリット

個人投資家にとって、考えられる主なメリット・デメリットは、基本的にはauカブコム証券視点の裏返しになります。

 

メリットは、auカブコム証券視点のデメリットとなります。つまり、今まで割高に空売りさせられていた銘柄のプレミアム料コストが減るかも、ということです。

 

デメリットは、auカブコム証券視点のメリットとなります。つまり、今まで割安に空売りできていた銘柄のプレミアム料コストが増えるかも、ということです。

加えて、借入者(=個人投資家)の需要が競争的になり、プレミアム料が払えない投資家の空売り機会が減ってしまいます。

落札の優先順位(発注時間<大口優遇プラン<入札価格)を考えても、ある意味大口優遇の仕組みとなっています。



デイトレ信用プレミアム料入札(オークション)方式の貸株市場における背景・意義

筆者が考える、デイトレ信用プレミアム料入札(オークション)方式の実施の背景・意義を整理します。

ネット証券の株券運用能力が向上

ネット証券は自己で保有する株や個人投資家から借りた株を、機関投資家のいる貸株市場に流していました。

最近では、機関投資家向け貸株市場のも競争が激しくなったり、ネット証券自身の顧客(個人投資家)が育ってきたこともあり、「わざわざ貸株市場を通じて機関投資家に貸さなくてもいいのでは」「自身の顧客に貸せばいいのでは」「機関投資家に貸せないなら、個人投資家に貸そう」という動きなのかなと考えます。

こうして一般信用売りのサービスが充実してきました。制度信用特有の”逆日歩”という、約定後に判明する取引コストを回避する仕組みが整ってきました。個人投資家も安定した空売りができるようになってきています。

 

個人投資家向けの貸株市場において価格発見機能が提供される

もちろん、自己の顧客(個人投資家)に貸すより、機関投資家に貸したほうが収益性が高い(より高いレートがつく)のであれば、個人投資家のほうに在庫が流れない銘柄もあるのではと思います。

個人投資家に流すか、機関投資家に流すかを判断するために、「個人投資家がどれぐらいまで払えるかを観察する」価格発見機能がこの新しい仕組みによって提供されたのでは、と思います。

今までは、証券会社がレンタル料を一方的に提示していました。

  • 貸株サービスの金利は、〇〇%です。
  • 信用取引の貸株料は、××%です。

 

今回、

  • 信用取引の貸株料(プレミアム料)は、個人投資家の皆さんの入札によって決めます

となります。

 

証券会社は、より多くの貸株料を払える個人投資家に株を貸す。個人投資家がアクティブに需要の申告をすることで、貸株における価格発見機能が期待されます。IPOのブックビルに似てますね。

auカブコム証券は、この新方式について、次のように表現しています。

これにより、需要に対して適正なプレミアム料にて、売建て機会が提供されます。

一方で、証券業界にて手数料競争が激化するなか、収益源を探る一環として、貸株料(プレミアム料)に目をつけた、とも考えられます。

 

制度信用取引の逆日歩との関係

もうちょっと踏み込んでみます。

入札、というと、制度信用の品貸入札を連想します。

 

品貸入札とは。日証金「機関投資家の皆さん、株を貸してください。足りるまで金利(品貸料)をお支払いします。」という仕組みです。

逆日歩がつく仕組みは、こちらにて詳細に解説しています。

【貸株市場を徹底解説③】制度信用取引を支える制度貸借の仕組みと今後

 

今回取り上げた仕組みは、次のようになります。

auカブコム「個人投資家の皆さん、株を借りてください。金利を一番高く払える方に、お貸ししますよ。」

 

両者のコストの特徴を比較します。

日証金(逆日歩):空売り約定後に、品貸入札によって決定する。許容コストを上回る可能性がある。(制度信用売りのデメリット)

auカブコム(プレミアム料):空売り注文前に、auカブコム証券が行う入札によって決定する。取引前に許容コストを提示できる。注文できないかもしれないが、許容コストを上回ることがない(今回の新サービスの押しの部分)

 

逆日歩(予測が難しい)を回避できるという一般信用のメリットがあるのに、約定前とはいえ、コストが確定していないことになります。ただし、約定前にコストが読めるのは、逆日歩に比べ、改善ポイントとなっています。

要するに、伝統的な制度信用の新規売り(逆日歩)と、従来の一般信用の新規売り(固定の貸株料)の間をとったようなスキームとなっているように見えます。

 

制度信用の貸株市場によってつけられる逆日歩、各社の貸株サービスの貸株金利、auカブコム証券のプレミアム料。貸借レートが3箇所で評価されることとなります。

ただ、「auカブコム証券のプレミアム料が、逆日歩のような参考指標になりうるか。注意する価値があるか」という問いには、規模や範囲が限定的なため、まだNOかもしれません。今後、この入札方式が拡大していけば、注意する価値が出てくるかもしれません。

※(豆知識)
貸株サービスの金利が高い銘柄の、一般信用売りの在庫状況を見てみると、面白いかもしれません。
仮に、貸株サービスの金利>一般信用売りの貸株料 であれば、現物買い+信用売りで、価格変動リスクを制御して金利が受け取れてしまいます。

 

後半は、筆者の考えを多く含む記事となってしまいました。
今回の記事は以上となります。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

 

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