【貸株市場を徹底解説⑥】信用取引金利と貸株レートから見る証券会社のこれから

【貸株市場を徹底解説⑥】信用取引金利と貸株レートから見る証券会社のこれから

「信用取引金利や貸株レートといった金融商品の価格について、各証券会社で差がある」ことを紹介した後、「その価格設計が、今後の証券会社の競争力になる」という話を紹介していきます。

 

前回までで、「一般貸借の重要性とその規模」について確認してきました。

今回は、その「価格(金利)設計」に注目していきます。

 

  • 信用取引金利・貸株料・貸株レートの傾向や特徴を整理する。
  • これら対投資家向けの価格設計の際に、「貸株市場」「資金市場」で付けられる価格が参照される。
  • これらの価格設計が、証券会社の機能や収益面で重要になってくる。

信用取引金利・貸株料の価格設計

まずはじめに、各ネット証券会社の信用取引(個人投資家が証券会社から資産を借りる)の価格について見ていきます。

下記に、各社の信用取引金利・貸株料を整理しました。

 


※各社HPより筆者作成
※矢印は、条件を満たしたときに変更後となる、優遇金利

 

足元では、auカブコム証券が信用金利・貸株料の改定予定を発表しました。

 

主に目立った部分を列挙しておきます。

共通部分

  • 優遇金利制度を設けている証券会社が多い。
  • 信用買い金利に関しては、一般のほうが安くなることが多い。
    日証金に繋がないで、なるべく自己で株を持ちたい企み・より安く資金調達できるという算段かと思われる。
  • 一方、信用の売りに関しては、各社横並びの金利が多い。

 

特徴的な部分

  • SBI証券・楽天証券の価格水準がほぼ横並び。
  • auカブコム証券が、一般信用の短期売りを廃止した。
  • 松井証券の一般信用の短期売りの貸株料は、銘柄ごとに異なる。
  • 信用売りに関しては、GMOが若干他よりも低くなっている。

 

信用取引金利・貸株料には、「証券会社の資金市場・貸株市場における調達能力」が反映されていると考えられます。

なぜなら、「証券会社は、赤字を切って株や資金を投資家に貸す」ことが考えにくいからです。

 

これら投資家向けの価格設計を眺めると、各社でまだまだ差があります。

各社の資金・株の調達能力や、収益(利ざや)の上げ方も見えてきそうです。

 

次に、貸株レートの現在の価格設計を見ていきましょう。



貸株レートの価格設計

次に、貸株サービス(個人投資家が証券会社に株という資産を貸す)の価格について見ていきます。

貸株レートについては、残念ながら全社が全銘柄を公開しているわけではありません。

見える範囲の情報を、こちらの記事で解説しています。

 

貸株レートを証券会社ごとに比較します!とその前に

 

貸株レート比較表を再掲します。

 

貸株レートのルール比較表(2020年11月時点)

ルール
/証券会社
SBI証券楽天証券auカブコム証券マネックス証券松井証券GMOクリック証券スマートプラス
更新頻度週次週次月次週次週次週次-
開示
範囲
全銘柄
一部銘柄1%以上
銘柄
変更予定
銘柄
非開示
最低レート(%)0.10.10.020.10.20.10.1
最高レート(%)上限なし上限なし上限なし0.1

※記号説明 ○:対応 ✗:非対応。ログインしないと見られない。 ?:確認できず

 

主に目立った部分を列挙しておきます。

 

共通部分

  • 貸株レートの更新は、週次で行われる。
  • 最低レートは0.1%に設定されている。
  • 全銘柄の貸株レートを開示している証券会社と、そうでない証券会社が混在している。

 

特徴的な部分

  • auカブコムの最低レートは0.02%に設定されている。
  • 松井証券の最低レートは0.1%ではなく、0.2%。他社とは違う銘柄の金利水準を上げることで差別化を図ろうとしていると考えられる。
    ただし、対象銘柄が絞られていることに注意したい。
  • SBI、楽天、GMOは、高金利銘柄が多い。(開示されている範囲内で)

 

貸株サービスレートには、「証券会社の貸株市場における運用能力」が現れていると考えられます。

なぜなら、「証券会社は、赤字を切って株を借りる」ことが考えにくいからです。

 

とはいうものの、証券会社は、なるべく株を調達したいと考えています。その結果、貸株サービスレートの競争が激しくなっています。

このことは、個人投資家(貸株サービス利用者)にとっては都合の良いことです。

 

貸株市場には、「借株需要の高い銘柄を持っているプレイヤーが偉い」という構造があります。

そのため、貸株レートを上げてでもその銘柄を調達したい証券会社が現れることとなります。

 

もちろん、資産運用の目的を見失ってはいけません。

貸株レートが高くても、値下がり率が高ければトータルで損になってしまいます。



証券会社の競争力となる信用取引金利・貸株料・貸株レート

証券会社の収益科目に、「金融収益」「金融費用」がありました。

これらには、信用取引や貸株取引で獲得した収益・費用が計上されます。

 

こちらの記事で解説いたしました。

【貸株市場を徹底解説⑤】財務諸表から見る制度貸借と一般貸借の取引規模

 

その収益の構成要素となっているのが、今回具体的に比較した「信用取引金利・貸株料・貸株レート」です。

これらをうまくコントロール(価格設計)して、資金や株を融資・調達することが、今後の証券会社の腕の見せどころであると、筆者は考えています。

 

株式売買手数料というフロー収入に代わる、金利・貸株料というストック収入という収入源につながります。

 

株式売買手数料の競争の次の舞台は、この信用取引金利・貸株料・貸株レートになるのかな?と勝手に思っています。

 

 

では、その価格の決定要因の代表的なものは何でしょうか。

・・・

貸株市場」「資金市場」です。

(信用取引の裏で、証券会社は、資金市場・貸株市場から資金・株を調達しているんでしたね。)

 

しかし、それらの価格決定要因は複雑に感じます。

 

特に、株の調達について。

証券会社としては、「株式をいかに安く調達して、高く貸せるか」を考えれば良いです。

 

しかし、上場している株だけで、約4000銘柄あります。

貸株レートが銘柄ごとに異なっている通り、銘柄ごとに調達コストが異なるわけです。

銘柄ごとにレートを最適化し続けるのは非常に困難でしょう。

 

逆に言うと、「レートの歪みを捉え、鞘を取り続けることができるプレイヤーが収益を上げる」ということになります。※ここでは、売買益は加味しません。

特に、証券会社にとっては、「収益性の高い銘柄をいかに安く借りてこられるか」が勝負どころになると思われます。

 

 

ここまでの記事で、一通り貸株市場の解説ができたかと思います。

改めてまとめておきます。

貸株市場入門まとめ

  • 信用取引という金融商品は、貸株市場に支えられて機能している。
  • 貸株市場を構成する一般貸借市場の役割が大きくなってきている。
  • 貸株サービスも、一般貸借市場に貢献している。すなわち、一般信用取引を支えている。
  • 信用取引は、今後の証券会社の収益源として重要になる。鞘を取り続けることができるプレイヤーが収益を上げる。

 

信用取引、貸株サービス、一般貸借(株券等貸借取引)は密接に関連していることがお分かりいただけたかと思います。

 

次回は、貸株市場入門のまとめとして、「貸株市場の現状と課題」を紹介して締めにします。

 

今回の記事は以上になります。ここまでご覧いただきありがとうございました。

 

☆貸株サービスをもっと知りたいならこちら☆
貸株サービスの解説記事をまとめました | 貸株.com (kashikabu.com)

 

こちらを参考に執筆いたしました。